「子どもたちが豊な人間性をはぐくみ、生きる力を身につけていくためには、何よりも『食』」が重要である。今、改めて、食育を、生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきものと位置づけ」、内閣総理大臣を会長とする「食育推進国民会議」を設置して、「国民運動」として展開する・・・。こんな趣旨をもった「食育基本法」が、2005年にようやく成立しました。
もともと日本では、食に関する教育は、家庭において、あたりまえに行なわれていたのでしょう。しかし、ひたすらに効率性や物質的な豊かさを追い求めはじめた高度経済成長期以後は、家庭は、食育どころか、食そのものまで解体させてしまい、つくる食事から買う食事へと変化してしまいました。大量生産や大量流通、農の工業化、外食チェーン店の台頭が、これに拍車をかけ、食の源である自然や風土、そして、それらと調和したものづくりは人々の視界から消えようとしています。
つくることをやめ、買うことがあたりまえになってしまった現在の私たち日本の食卓。
食費の30%を外食に支払い、50%を調理済食品や加工食品で賄い、自分で調理するために購入する食材費は20%以下にまでおちこんでいます。また、食料自給率も低下の一途をたどり、40%を切ってからも、ほとんど回復できない状況にあります。1億2600万人もいる日本の食糧を担っているのは、約360万人の農業者と約24万人の漁業者の方々で、たった3%の生産者によって97%の国民の食料が支えられています。しかも、その400万人の生産者の67%は60歳以上の高齢者なのです。
日本におけるスローフード運動の要は、「質のよい食」を提供してくれる生産者に、もっともっとスポットライトを当てることにあります。
そして、たんなる「消費者」から「共生産者」としての判断力を高めるため、味覚の教育を推進すること、そして世界に誇る日本の食文化を大切に守り、世界へアピールしていくことだともいえるでしょう。
日本が、賞味期限切れの弁当やファストフード、外食の残り物や過剰生産によって捨てられる作物といったものを半分に減らせば、世界の食糧援助はまかなえるといわれています。わたしたち消費者が「共生産者」に変わることで、地球全体の食糧問題にも大きな影響を与えることができます。押し寄せる輸入農産物や輸入食品の氾濫を食い止めることで、いま地球上で苦しむ多くの人々にも、そして地球の環境問題にも大きく貢献できるでしょう。
日本各地で続々と生まれているスローフード協会と、その支援団体であるスローフードジャパンの誕生、そして日本のこれからの運動に、国際本部はじめ世界中の仲間たちが注目し、期待を寄せています。日本のスローフード運動が充実し、発展することで、スローフードの哲学がアジア、太平洋地域に広がり、平和で「おいしい」関係をつくっていくことにつながるからです。